津久井湖
2020月3月6日

津久井観撮レポートその6
「津久井のサクラ」

【津久井・明日原(あしたばら);この樹の幹周りは3.57mあり、枝の長さも10m以上で、樹高は20mより高そう。私が出会った津久井のサクラの中で一番の巨樹。枝ぶりは野生味あふれ、公園や寺社にあるような美しい姿ではないが、力強い老木である】

相模原市緑区津久井地域はサクラの多いところで、公園や寺社ばかりでなく、野山や私有地にも多く見られる。種類や生息地の違う野生種が各地にあるため、3月から5月上旬まで楽しめる。

ところで、サクラには野生種が10種類あり、園芸品種は200種類以上もあるという。
中でも神奈川県ゆかりの2品種を紹介する。一つは「普賢象(ふげんぞう)」で大変古く、室町時代からある品種で、鎌倉の材木座にある普賢菩薩を祀るお堂の横に咲いていたのが名前の由来で、ヤエザクラでは日本最古の品種と言われている。もう一つは「ジンダイアケボノ」。アメリカでソメイヨシノと別種のサクラが交雑してできた品種が、逆輸入され神代植物園で接ぎ木してでき、1991年新品種として登録された。ジンダイアケボノはソメイヨシノに比べててんぐ巣病にかかりにくい。花の色づきも濃く、枝が小振りであり、街路樹として扱いやすいという特徴があるため、「日本さくらの会」では今後この品種に期待しているようである。

そのジンダイアケボノの元になったソメイヨシノは、「憲政の神」と言われた政治家尾崎咢堂(行雄)が、明治45年(1912年)東京市長であった時、日米友好の印として、12種類3,000本のサクラをアメリカ・ワシントンに送ったものだろう。
尾崎咢堂は相模原市の旧津久井町又野が生誕地で、その地に記念館もあり、そこには今も大きなソメイヨシノや咢堂桜(がくどうざくら)と呼ばれている普賢象、里帰りした孫桜の関山(かんざん)が春を彩る。

 
<カワヅザクラ>

いち早く3月に咲くカワヅザクラは公園などで見られ、春本番が近いことを知らせてくれる。早咲きを楽しみたいためか、近年津久井でもたくさん植樹されるようなった。
JR横浜線・京王線の橋本駅近くの公園でたくさんのカワヅザクラが咲くのを眺めると、津久井の人にとっては地元での開花が間近であることを感じることができる。

 【三井 八幡神社;カワヅザクラ】

 

 

 

 
<ソメイヨシノ>

津久井のサクラの主役は新入りのカワヅザクラより、やはりソメイヨシノである。
古くは大正5年(1916年)、横浜水道の送水管敷設竣工記念として三工区(現在の城山ダム下あたり)に植えられたサクラが年輪を重ねるごとに見事に成長し、この河原はお花見で大いに賑わったことは今でも語り継がれている。津久井湖観光センターの周辺はサクラで彩られ、毎年桜まつりが開催されているが、そのサクラの一部は三工区から植樹されたか送水管敷設記念竣工時に植えられたのではないかという話もある。これらのサクラはヤエザクラも数本あるが、ほとんどがソメイヨシノである。【中野 観音寺;大きなソメイヨシノやシダレザクラが見事】

 
<山肌に咲くサクラ>

東京都との県境の山肌に咲くサクラたちの開花時はまるで自己主張しているように、その存在が確認できる。私はここに住んで30年ぐらいしか経っていないが、どうもこの山肌のサクラが年々増えているように見える。気になりほかの人に聞いてみても、皆さん増えているように感じている。また、昔この山肌の桜皮を使って茶筒を作った人がいたという。きっと昔からかなりの数のサクラがあったのだろう。津久井でサクラの群生地は津久井湖観光センター、稲生の桜山、三ヶ木・長成寺の裏山などがあるが、この山肌のサクラが津久井の一目千本桜になってくれるだろうか。

 
<マメザクラ>

最後に3月下旬から5月上旬に咲くのがマメザクラ。これは丹沢山塊の黍殻山(きびがらやま)から姫次(ひめつぐ)にかけての標高1200m~1400mの尾根筋で見られる。4月の下旬から連休にかけて下向きに咲く小さな可愛い花だ。
富士山周辺で見られるのでフジザクラの別名もある。低木で花付きがよいので観賞用に植樹されているところもあるようだが、低地ではソメイヨシノよりやや早く咲くという。

【黍殻山 避難小屋付近;登山はきついが可愛い花が迎えてくれるのはうれしい】

 
<尾崎咢堂記念館のサクラ>

先に書いたが、「憲政の神」と言われた尾崎咢堂の記念館には大きなソメイヨシノが5本、咢堂がアメリカに寄贈して100周年になる2012年に里帰りした小さなソメイヨシノが1本、同じく咢堂がアメリカに寄贈した関山の孫樹が1本、そして昭和56年(1981年)4品種32本が里帰りし、その内の1本の普賢象がここに植樹された。その普賢象も今では胸高幹周り126cmになり、たくさんの花をつけてくれている。落下した花までも管理されていて、まさに咢堂の偉大さを見せられているようだ。

【尾崎咢堂記念館;庭一面に敷き詰められた普賢象の花】

そのほか、ソメイヨシノが咲く前に雑木林に入ると可愛いチョウジザクラがひっそりと咲いているし、ソメイヨシノの後はヤマザクラやヤエザクラが各地で咲いてくれる。
このように、津久井で3月から5月までサクラを愛でることができるのはヤマザクラ、オオシマザクラ、マメザクラ、チョウジザクラなど野生のサクラが各地に自生していることと、100年前の2つの事業(横浜水道の送水管敷設竣工記念の三工区への植樹と尾崎咢堂がサクラをアメリカ・ワシントンに贈呈)がもたらし、現在に至っている。今日、このように100年以上続いていく価値のある事業は軽視され、目先の事業ばかりに目を向けられがちだが、1世紀以上経っても人々の心を潤し続けているこの様な事業を再認識したい。さらに、尾崎咢堂記念館のように、落下した花にまで心配りしていることにも感謝したい。

注意
サクラの開花期については平年で表記していますが、今年はかなり早まりそうです。
サクラの種名などお気づきの点がありましたら、ご連絡ください。
・参考文献;八木孝雄、2001,「湖底のふるさと 荒川」

文章・写真:里の案内人 安川源通

 

関連リンク:津久井と写真の共通点を見つめる -NPO法人里山津久井をまもる会 安川源通さん

おすすめの里の案内人記事

津久井湖 2020年1月28日

津久井観撮レポートその5
津久井在来大豆

日本食にとって欠かすことのできない大豆は、古くから栽培されていたが、1969年から始まったお米の生産調整によって経済性の高い作物生産への転換が進むにつれ注目され、さらに、21世紀当初から健康志向意識の向上や郷土食の見直しがあり、大豆の生産が活発になってきた。 神奈川県の在来系の大…