津久井湖
2018月10月15日

津久井と写真の共通点を見つめる
-NPO法人里山津久井をまもる会 安川源通さん

リバートレッキングやデイキャンプ、デジカメ自然散策、農作物の栽培など、自然を満喫できるイベントが、都心からも日帰りで気軽に行ける神奈川県相模原市緑区(旧津久井町)で行われています。
今回は、毎年多くの参加者が集まるこれらのイベントを主催する、「NPO法人 里山津久井をまもる会」の理事長 安川源通(やすかわ・もとみち)さんにお話を伺いました。

安川さんは昆虫写真家としての活動が本業で、アマゾンやアフリカ、アラスカなどへ撮影に行かれた経歴をお持ちです。この土地に住むようになって30年。いまだに自分を「よそ者」と言う安川さんに、NPOの活動と写真家としての活動の共通点についてお話を伺いました。

新しい発見をもたらす、「よそ者」の視点

安川さんが理事長を務める「NPO法人 里山津久井をまもる会」の活動は、『自然体験プログラム』と『里山環境保全に関わる特産品の開発』の2種類のプログラムから構成されています。

-水族館作りの様子(撮影:安川さん)

「『自然体験プログラム』のひとつである「わくわく冒険隊」で、最近テーマにしているのは水族館を作ることです。ここら辺は小さな川だけど結構魚がいるんですよ。採った魚を大きな水槽に入れて観察します。昼食は「わくわくバーガー」と呼んでいるハンバーガーを自分たちで作って食べる。バンズも自分たちで育てた小麦で作っているんですよ。」

-道志川のリバートレッキングの様子(撮影:安川さん)

「道志川の支流、牧馬沢(まきめざわ)から牧馬大滝(まきめおおたき)まで歩くリバートレッキングも好評です。丹沢の中でも一番人気の滝です。途中で珍しい形の奇岩(きがん)に囲まれながら、野鳥や花や昆虫を観察します。大滝のほかに滑り台のようにも遊べる滝もあります。子どもたちは喜びますよ。」

-奥に映る滝が牧馬大滝

「「わくわく冒険隊」でハンモックを設置するんですが、これは私が昔アマゾンへ行っていた時に、1年間ハンモックを使って寝ていた経験からのアイデアなんです。それで子どもたちが自由に遊ぶわけですよ、『おもしろい!』と。昔自分が経験したことを活かしながらアイデアを出しています。」

「1〜2月の冬場は、味噌と醤油を作ります。寒仕込み(かんじこみ)といって、雑菌が入らないようにするためです。3時間煮込んだり、4日間徹夜で温度管理をやったりと手間はかかりますが、作ったものは、それはもううまいですよ。日本に四季があって本当によかったと思いますね。」

-味噌作りの様子(撮影:安川さん)

-左が手作りの醤油、右が市販の醤油。無添加のもので作られた手作りの醤油は透き通って とても美味しいそうです(撮影:安川さん)

 

プログラム作りにも生かされている海外経験。様々な経験をされた安川さんが津久井地域にたどりついた経緯と、活動を始めたきっかけをお伺いしました。

-過去について語る安川さんにうかぶさまざまな表情

「海外で一番長く滞在したのはアマゾンの1年間で、写真家として取材をしてきました(1970年)。他にはアフリカ、アラスカですね。もともと、生まれは愛媛県松山の道後、小学4年の時に香川県の高松へ、そこから小学6年の時に東京に来ました。海外など含め10回くらい引っ越していて、ここへ来て30年になります。
僕は転々といろんなところを歩いて来たので、30年経った今でもよそ者なんです。」

-わくわく冒険隊で使用する広場の風景(撮影:安川さん)

「だけど、よそ者として外部から地域を見る感覚を大切にしているんです。「わくわく冒険隊」の始まりがそこにあるんですよ。例えばこの近くにある広場は、地元の人にはあまりにも当たり前の環境で、遊ぶところだと思ってない。そこでいろんな自然体験プログラムをやると子ども達は喜んでくれるわけです。

他にも中野山という山が近くにあるんですが、僕はそこが結構好きで、行くと思わぬ発見をたびたびするんですね。たとえばそこから東京スカイツリーが見えるんです。津久井から見える、なんていうと地元の人はびっくりするけど、何十年ここに住んでいたってそれに気づかない。

つまり、そういう発想が地元の人には難しいんですよ。こんな近くに地元に豊かな自然があるじゃないかと。そこで1999年に子どもたちを集めて中野山へ行こうということになったのが「わくわく冒険隊」の第1回目であって、それが始まりなんです。」

大事なことは、身近なものの魅力に気づく感性

昆虫写真家として活躍する安川さんの「デジカメ自然散策」もプログラムの大きな魅力のひとつ。写真家の目を通じて、地域での活動で大事なことを教えていただきました。

-「大事なことは写真も自然体験も同じ」と語る安川さん

「僕は昆虫の勉強はしたけど、写真は特に何にもやっていないんです。もっと言えば、写真の技術は勉強するもんじゃないと思っています。写真は技術について、構図がどうのこうの…というのがあるでしょ。僕はそれだけではダメだと思っているんです。

大事なのは“感性”なんですよ。
感性なんて教科書にないでしょ。難しいですよ。大人の方が発揮できなくて、子どもの方がびっくりするようないい写真を撮りますよ。

逆に、デジタルになってこんなに便利なものがあるんだとびっくりしています。ある昆虫写真家が10年間かけて作りあげた機材が、カメラを買うだけで撮れる時代です。僕が取材するのは身近な昆虫ばかりです。海外へ行って美しいチョウチョや珍しい昆虫を撮ったりする人もいるけど、今の僕は一切興味ないんですよね。
特にデジカメになってから、美しいチョウチョや珍しい昆虫の写真は、実はカメラが撮ってるという感覚が強いんです。簡単にいい写真が撮れちゃうんです。

そうなると、当然昆虫との付き合いも変わってくる。僕は自分の撮影対象もそうだし、普段子どもたちに『身近なものを撮ろう、身近なものを観察しよう』と言っています。それが僕のキーワードですね。どういう思いで身近なものと接するかを、遊びながら学んでいくことを大切にしたい。」

-身近にあるスミレはとても可愛らしいです(撮影:安川さん)

「写真も自然体験も一緒なんですよ。つまり『自分の身近なものが大事』だということなんです。身近なものがいかに重要かということを、皆さんにお知らせしたいだけなんです。地域の中でお金かけないでも遊べるものがたくさんあるじゃないかと。そういうのを知ってもらいたいんですよ。

それは家族など様々なことでも言えます。食事だってそうでしょ。お母さんに作ってもらったものが一番美味しいわけだ。要はそういうこと。身近なもの、それを大切にしたい。だから、そういうことやってると写真なんか全然売れないんですよ(笑)

だってお母さんの料理売れる? それだったらどこかのラーメン屋さんやレストランに行った方がいいでしょ。だけど、じゃあ何が違ってお母さんの料理がいいと思うのか。
こっち(胸を叩きながら)の問題。意識だとかこっちの問題。だから写真もそういうことなんです。」

-強く胸を叩く姿に安川さんの想いを感じました

「写真教室では子どもだちに校庭や教室の中で身近なものを探しなさいと言います。自分で探していく。それが大事なの。

だから“感性”という高尚な言葉を使ってしまったけど、そういうことを育てていくことがやがては、いろいろなものに繋がっていくわけですよ。」

ここに住む理由と価値観を認め合う津久井へ

地域の身近な魅力をよそ者の視点でたくさん見つけてきた安川さん。この場所に住み続ける理由と、今後どのような活動をされるのかを伺いました。

-お気に入りの場所に立つ安川さん

「みなさんから聞かれますよ。ここに住むのはだいたいは「身近な自然が豊かだから」と言います。実際には、どこかに落ち着くために、いろんな要因も重なってここにいます。ふざける時には霞(かすみ)が美味しいからって言いますけどね(笑)。

ただ、基本的には津久井の水、特に道志川の水が気になっていたのかもしれない。
人間というのは水に惹かれるから、この環境の中で生活できるのは落ち着けるし、安心を感じたんだと思います。

それに里山津久井をまもる会も、地域活性化とまでは最初は考えていませんでした。

例えば味噌を作っても、自分の家で作れるような指導をしているんです。それを売ろうとは思ってない。醤油も産業に結びつけようとは考えていない。そこに生きている人たち、住んでいる人たちが、この土地を楽しんで心地よくなってくれればいいという考え方です。
だから、ここには欲のある人がいないですね。何かをして、たくさん儲けようというのではなくて、自分たちの安心・安全な作物、食べ物を作ろうよというのが基本的な発想の人が多いです。

-山梨〜東京間を結ぶ橋の下に、役割を終えた旧道跡地

「それに最近は、この場所の魅力が伝わりやすくなっているんじゃないかなと思っています。僕が一番感じるのが、昆虫を好きな若い女性が多くなってきているように感じます。それと同じで農業なんかも小さな赤ちゃんがいる若い人たちが参加してくれたりします。ここに30年間住んで、変化を感じています。

あとは、住んでいる人の職業がいろいろなんですよ。画家、登山家、林業、農業、サラリーマンもいる。そうだ、南極に行った人が2人もいますよ(笑)。いろんな人がいるわけでしょ。そういう人と会話できるのがひとつの魅力でしょうね。
同時に、地元の人はどんどん年をとり、若い人は外に出てしまっています。だからたまに外の人が入ってくると目立つし、地域としてもいいんですよ。

ただ、人が増えることが地域の活性化というのではなく、この土地に暮らす人たちにいい影響を与えられるかどうか、精神的な影響を与えることができるというのが、大事なことじゃないかと思います。」

-自分の生き方をしっかり持って生きていこうと語る安川さん

津久井へ、ようこそ

「外から人が入ってきてくれるのは嬉しい。大歓迎。ただ途中でいなくなる人もいるから、嬉しいと思っていても本人たちは嫌になっちゃうんでしょうね。僕なんかも随分いろいろありました。

問題は地元に慣れるということなんですけどね。結局、こうした方がいいなどというアドバイスはないと思うんです。自然に生きていれば、あるいは自分の生き方をしっかり持って生きていれば、周りも認めてくれます。そういう時代になりました。その代わり、1~2年じゃちょっと短いと思うな。」

「今後たくさんやりたいことがあるから僕はここにいます。計画性は全くないんですけど、今の津久井の良さをいかに残していくか。そして少しでも仲間が多くなって、それぞれの価値観を尊重しながらやっていけるようなグループ、快適な地域になればいいなと思います。

だんだん僕が津久井にいる理由がわかったでしょう?」

様々な楽しみ方ができる里山津久井。みなさんも、ぜひ遊びにきてみてはいかがでしょうか。

 

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