絆とともに受け継がれる伝統 城山のお囃子

神奈川県相模原市緑区の、旧城山地区に受け継がれる伝統芸能「お囃子(はやし)」。
城山地区では10以上ものお囃子の団体が日頃から活動しています。中でも10の団体が「城山町祭囃子連絡協議会」に加盟し、伝統芸能としての発展を目標に相模原市緑区で開催されるイベントをはじめ、かながわのまつり50選である「城山夏まつり」など様々な場面で腕を披露しています。

689名(平成30年5月現在)にも上る連絡協議会加盟団体総動員でのお囃子演技(城山夏まつり)

連絡協議会加盟団体の1つである「中澤囃子連」が主催となり、お囃子の団体が一堂に集まるイベント「囃子の集い」が三嶋中澤神社大祭の前夜祭として開催されました。

後継者不足に悩む伝統芸能が多い中、ここ城山地区では老若男女問わず、多くの人がお囃子に情熱を傾けています。お囃子に特化した城山地区の珍しい夏のお祭り、その魅力に迫ります。

■中澤囃子連発足30周年記念大会 第24回「囃子の集い」
開催日時:2018年8月18日(土)19:00~
場所:中沢自治会館(三嶋中澤神社前)

地域に根付くお囃子の起源と特長

晩夏の夜を楽しむ人々でにぎわう会場

会場は開始時間前から多くの人であふれていました。売店では焼きそばやヨーヨーなどが出店され、提灯で装飾された会場はまさに夏祭り。
山車(だし)も舞台の横に設置され、日が暮れる頃合いにお祭りは始まりました。

舞台横に設置された、お囃子を演奏する山車

持ち時間は1団体10分。次々と各地域のお囃子団体が演奏を始めます。まず、主催の中澤囃子連長にお囃子の起源やこの地域の特長についてお話を伺いました。

中澤囃子連 連長 高麗良雄(こま・よしお)さん

高麗さん:お囃子の起源は諸説ありますが、一説には有名な神話「天の岩戸(あまのいわと)」があります。
天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩戸(あまのいわと)と呼ばれる洞窟に隠れて世の中が真っ暗になってしまった時、洞窟から出てきてもらうために天鈿女命(あめのうずめのみこと)が囃し立てた音楽に合わせて舞ったことが始まりとされています。

この地域に伝わる流派は大きく2つ 、大戸囃子と久保澤囃子があり、私たちの団体は町田市から伝わった大戸囃子を継承しています。(平成18〜19年にかけて津久井町・相模湖町、城山町・藤野町が合併し相模原市へ。特に旧城山町は町田市と近い。)

つけ太鼓2つ(正面右側)、大胴1つ(正面左側)、鉦(かね)、笛の五人囃子で構成され、音に合わせて獅子舞やひょっとこなどが舞う

高麗さん:地域の祭りは、疫病や災害を防いだり、豊作や安全祈願を目的に始まりましたが、それをキッカケにみんなで神様と楽しもう、とお囃子がスタートしています。地域の人同士の関わりが薄まってしまわないようにするためにも役立っていて、幼稚園から70代~80代のお年寄りまで一緒に楽しめるのがお囃子の魅力です。町内のどこで会っても挨拶が交わせる、子どもの健全育成にも繋がっています。

地元出身者と地区外出身者が語るお囃子のやりがい

懸命な舞いと演奏が可愛らしくも堂々とした子どもたち

演技を見ていると、男性だけでなく若い学生や女性、歩き初めたばかりのような小さなお子さんの活躍が目立ちます。彼らを惹きつけるお囃子の魅力とはなんなのでしょうか?
城山地区の出身者と、地区外から中澤囃子連に参加する方々にお話を伺いました。

中学3年生の畠山薫帆(はたけやま・ゆきほ)さん(左)と城山地区外から参加する渡邉美祈(わたなべ・みのり)さん(右)

畠山さん:小学1年の時にこちらへ引っ越してきました。高麗さんと家が近く、練習に参加させてもらったことがお囃子をはじめたキッカケです。今は弟2人もお囃子をやっています。うまくなるのが楽しくて、お祭りの後には地域の方に「よかったよ」と声をかけてもらったり、握手をしてもらったりするのがとても嬉しいです。

渡邉さん:小さい頃からお囃子を見るのが好きで、畠山さんがやっていたのが羨ましかったんです。私は違う地区なんですが、小学6年生の時に「やりたい」と声をあげて入らせてもらいました。最初は簡単な太鼓しかできなかったけど、まじめにやるとできることが増えてやりがいを感じます。お祭りをキッカケに、学校帰りも畑でお仕事をしているおばあちゃんが声をかけてくれるので、安心して帰れます。

左から八木鼓夏(やぎ・こなつ)さん、八木友香(やぎ・ゆか)さん。右は地元出身の長谷川由希美(はせがわ・ゆきみ)さん

長谷川さん:6歳から始めて30年、父がやっていたことをキッカケに、物心がついた頃にはもうお囃子をやっていました。娘が今年5歳でお囃子をはじめたので、彼女が大きくなって私がおばあちゃんになっても一緒にできる生きがいになるんじゃないかなと思います。
小さいころはこの地域での暮らしは不便だと思っていたけど、(地域を出て)帰って来たら「中澤が大好きだわ!」って改めて気づきました。

八木友香さん:私は3歳から始めて、父も母もやっていました。やりがいは、「終わりがない」ところですね。次はこうしたい、ああしたいと常に勉強、研究していけること。また下の世代へ上手に伝えたいと思っているんですけど、伝え方が難しい。それも終わりがなくてやりがいになっています。ここ城山のいいところは地元の人の距離が近いところで、名前を言えばわかってくれるのでみんなで子どもを見守れる地域です。

八木鼓夏さん:…。(恥ずかしそうに俯く)

八木友香さん:この子はお祭りの日に生まれました。胎内にいるときからすでにお囃子は聞いています。だから、今中学1年生なんですが、もう12年のキャリアを持っています。お囃子をやらない選択肢がなかったんですけど、他の人の演目も1人で聴きに行くくらいすごく研究熱心で。昔、熱が出てしまって練習ができない時に、「踊りたい」と泣いて訴えたこともありました。今では私が間違えると「違う」と怒られますね(笑)。

演奏中の姿からは想像ができない、恥ずかしがり屋の鼓夏さんですが、自分の声ではっきり答えてくれる質問がありました。

「一番尊敬する人は誰ですか?」

八木鼓夏さん:おばあちゃん。

鼓夏さんの踊りの師匠でもあり一番尊敬しているおばあちゃん(左)。3代揃ってお囃子に取り組む八木さんご家族

伝統芸能を継承していくための大事なもの「地縁(ちえん)」

最後に、城山地区のお囃子10団体代表者が集まって運営する「城山町祭囃子連絡協議会」の広報 山本剛 (やまもと・たかし)さんにこの地域のお囃子への取り組みについて教えていただきました。

舞台裏で出番を待つ緑区向原の向原囃子連の若者たち

山本さん:同じ曲でも演奏する人で変わり、流行(はや)りがあります。時代が流れ、世代が変われば感性も変わる。口伝で伝わったものなので各地域それぞれで独特なものになっています。

昔は現代のように録音した音源や録画した映像がなかった為、演じる側の記憶や想像力に委ねられた余白が残るお囃子は、若い人によって少しずつ新しいものに変革されていっているのかもしれません。

緊張感が溢れる開幕前の様子

山本さん:小さい頃は祭りをただただ楽しいと思ってもらえればいいんです。年頃になると一度やめてこの地を離れ、落ち着くと戻ってきます。その時に幼い頃の共通の思い出があり、ライバルと切磋琢磨した記憶がある。そういったものを頼りに戻って来て、またこの伝統芸能を残し続けていってほしいです。

山本さんご自身もお囃子を一時期やめていたそうですが、小さい頃にお囃子の魅力に十分触れていたからこそ、また地域のお囃子に戻ってこられたのでしょう。

真剣な眼差しで若者たちの舞台を見守る

山本さん:今後もとにかく続けていくこと。いろんな人が楽しい時間を過ごす場になってもらいたいですね。思い出があれば一度バラバラになってもこの城山へ戻ってこられる。
縁があってこういった田舎に住んでいるんだから、イベントを通じて地域内外の人の繋がりを作りたい。
少子高齢化はこの地域でも深刻で、昔よりも人の繋がりが薄まってきてしまっています。だからこそ、こういう場が地域の縁、地縁を強くしていく大事なものだと思います。

地域に住む人たちが同じものに取り組み絆を深める。 顔を合わせることで、引っ越して来た人もこの土地に馴染む。伝統芸能を受け継いだ大人たちの姿を、子どもたちが目を輝かせて見入る。そして一度は離れても、戻った時に今度は自分たちがこの伝統を後世に受け継ぐ担い手になる。
先人たちが守ってきた伝統芸能「お囃子」。城山地区には現在も熱い心で守り続ける人々がたくさんいます。ぜひ、ご自身の目と耳で体験してみてください。

今後のスケジュール

水源地域キャンペーン
日程:2018年9月22日(土)
場所:川崎アゼリア サンライト広場
問合せ先:神奈川県 土地水資源対策課 045-210-3124

城山もみじまつり
日程:2018年10月21日(日)
場所:原宿公園(相模原市緑区原宿南1-17)

しろやま得の市
日程:2018年11月3日(土・祝)
場所:城山総合事務所前(相模原市緑区1-3-1)

かながわ商工会まつり2018
日程:2018年11月17日(土)
場所:赤レンガ倉庫 イベント広場(横浜市中区新港1-1)

本沢梅園まつり
日程:3月上旬
場所:本沢梅園管理棟前広場(相模原市緑区川尻4457-1付近)(予定)

問合せ先:城山町祭囃子連絡協議会 事務局 山本 090-2673-5335
(※水源地域キャンペーン以外全て)

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