宮ヶ瀬湖
2019月3月14日

清川村の地域活性化と隠れた資源を引き出す「結の樹 よってけし」岩澤克美さん

神奈川県唯一の村・清川村が、地域活性化の事例のひとつとして、今注目を集めています。
仕掛け人は、NPO法人『結の樹(ゆいのき)よってけし』理事長・岩澤克美(いわさわ・かつみ)さん。安心して暮らせる地域づくりの活動を行うため、2015年からNPO法人化し、住民の高齢化と後継者不足、また耕作放棄地や空き家の増加といった、多くの地域に共通する課題に取り組んでいます。

里の案内人としても活躍されている岩澤さん。新たな展開が始まっているということで、今回改めてお話を聞きに伺いました。
約3年の試行錯誤を経て、そこには『よってけし』に集う人の笑顔と、さらに広い視野を持って次のステージを目指す取り組みがありました。

関連リンク:地域住民が集い、気軽に交流できる場「結の樹よってけし」

今の時代に必要なのは多世代を融合した”地域力”

「村の過疎化や高齢化を受けて、行政は子どもを持つ世代の移住を推進する取り組みを行っていますが、移住したからといって、みんながみんな地域に溶け込めるかというとそうではないのが現状です。だからこそ、『よってけし』という繋がる場を、あえて学校や会社の外に作り、地域の人と交流するきっかけを作ろうと思いました。」

―『よってけし』の温かい雰囲気が伝わる手作りのパッチワーク

「きっかけは、7年くらい前に降った大雪です。私が住んでいる地域は『雪かきやるよ〜』と声をかけるとみんなが集まってくれて、行政が除雪する前に自分たちで道を作れるほどの地域力があります。一方、仕事で訪れた清水ヶ丘団地(『よってけし』が主に活動する地域)は近所にお年寄りが一人暮らしだとわかっていても手を貸すことがなかったので、家の前は雪だらけ。『この差はいったい何だろう。』と自分の中ですごく不安に思ったんです。」

「その時に、ここには”地域力”、”コミュニティ”がないということに気がつきました。私は当時、清川村社会福祉協議会で働いていて、高齢の一人暮らしや食事を作ることが難しい方々に、ボランティアの皆さんがお弁当を作って届ける、配食サービスの事業に携わっていました。そこで一人では解決できないことが多々あることを実感していたので、こういう時にこそ”地域力”は大事だと思いました。
昔からある場所には”地域力”や”コミュニティ”があるけれど、ここのようにたった40年前※にできた新しい場所にはそうしたものがないということが、大雪の時に露呈したんですね。」
※『よってけし』が主に活動している地域は、昭和50年代に宅地開発が行われました

―『よってけし』の活動を手段として捉え、目的を語る岩澤さん

「こんな田舎なのに、40年暮らしていても隣の人が誰だかわからない。隣の人のことは知っていたとしても、同じ区の人に会うのは年に1回あるかないかで、都会で働いているのと変わらないなと思ったんです。だからこそ、世帯間・世代間のコミュニケーションが生まれる場の必要性を感じました。そこに障害者や生きづらい人が関わってくれば、『よってけし』の活動は今の時代の流れに沿った、非常に重要な活動だと思うんです。」

人口3,000人の村にこそある、恵まれた資源と高いポテンシャル

―大井さんの賄(まかな)い作りの様子。取材日のメニューはお雑煮でした

「『よってけし』で働いてくれている、今年米寿を迎える大井アサ子さんの仕事は、スタッフの賄(まかな)いを1週間に1回作ることです。もともとは飯山の芸者さんの和服を縫っていた方でしたが、ご高齢で働けなくなってしょんぼりしていました。そこで、着物などをリフォームして洋服を作る教室をここで開いてもらいました。ご飯を作るのも好きな方だったので、『私たちのために1食作ってくれない?』と提案して、今は人のためにご飯を作る喜びや、みんなで食べるご飯の美味しさを感じて生き生きと働いてくれています。」

「胃袋ってとても大事で。“同じ釜の飯”ってよく言ったものだなぁと実感します。ここではまだお給料は出せていない分、みんなでお昼ご飯を食べるというのがルールになっています。みんなで同じものを食べると、『美味しいね』『これは、どうやって作ったの?』など一緒に座って話す時間が生まれて、みんなの仲が深くなっていきました。」

―塩谷さんは様々な車を運転できる免許をもっている元教習所の先生

「2階で作業してくれている60代の塩谷保(しおや・たもつ)さんは、もともと教習所の先生でした。「じゃあ運転は得意だよね」ということで、清川村から配送業者の人がいなくなってしまうタイミングで、メール便の配達の仕事に繋がっていきました。
実は塩谷さんは、癌にかかっていました。抗がん剤を打ちつつも、ここにきてやりたい仕事を元気でやって、ご飯を食べて笑って帰ると、全然病気って感じがしないんです。無事、もうすぐ治療が完了するのですが、もし1人で居たら病気に克てなかったかもしれない、とみんなで話していて。彼がカミングアウトしても、ここでお互いに頑張ろうよって言い合える環境があった。それがすごく大事なことだと思います。」

乾さん―大きな種を運んでくれた乾さん

 

「また、”大学連携”という大きな収穫となる繋がりを作ってくれた厚木在住の乾美佐(いぬい・みさ)さんもいます。乾さんは2018年6月に友人から紹介されて『よってけし』に遊びに来た方で、厚木でいろんなマルシェに出店されています。「ミドラボ オープンハウス2018」というイベントで、賑わいづくりのためにマルシェを開催するということで、彼女から『よってけし』に出店の依頼をいただいたことをきっかけに、大学との連携が始まりました。このマルシェは、東京工芸大学の先生たちが、住宅供給公社から委託を受けて厚木市にある緑ヶ丘の団地を活性化する取り組みの一環のイベントでした。

そのイベントをどう盛り上げるかという学生さんとのディスカッションの中で、今年から始めた里山再生活動の話をしたところ、『山や木が大好き、一緒に何かしたい!』と、盛り上がったのが“ツリーハウス”と“森のテラス”構想です。昔のように山の中で遊べるといいね。それには山にちゃんと手を入れて安全に歩ける道を作ったり、森の中にテラスを作ったりして、テラスからは、かつて耕作放棄地だった畑に作物が実っている様子が見える…といった様子をイメージしてもらったら、『面白いね』ということになり、じゃあ一緒にやってみようよって話になって。

そのアイデアをキャッチして、大学の先生に『私たちと一緒にやりませんか?』と提案を投げかけたところ、マルシェが終わった後に大学側は活動エリアの山の全体模型を作ってくれたんです。
山と谷と…学生たちは地形図から模型を作ったことがなかったそうで、2ヶ月集中してやってくれたことが彼らにとっても勉強になったようで。
建築を学ぶ学生は、そこに住んでいる人だったり地域だったり、そこから建物を建てると人はどう変わっていくのか、 どういった流れができるかという広い視野を持って勉強したいし、しなきゃいけないけれど、実際に場所がないとなかなかできない。でも清川村ならそれが提供できるんですよね。」

種まきの様子―大学生にとっては麦巻きも貴重な経験の1つ

 

「学生さんたちも実際に課題が目の前にあったら、ワクワクして勉強に取り組めると思うんです。自分の意見が反映されて、今度は地域の人たちの意見を反映して、形になっていく様を自分たちが見ていける、携わっていける。これから派生する畑や空き家などの問題も連動して地域がどんどん変化していくんです。
学生は好奇心たっぷりで、『楽しい畑仕事があるよ』って誘ってみたら、『何でも経験したい』っていうことで、全員に麦まきを手伝ってもらいました。彼らの成長と共に麦も一緒に成長していきます。

大学連携はさらに広がりをみせ、今は東京工芸大学と東京農業大学と、産業能率大学が来てくれています。最近ではKTCおおぞら高等学院の高校生も来てくれました。
私たちがこういった活動をすることによって、おじいさんやおばあさんが困っているときに学生が手を差し伸べるきっかけを作ることができ、彼らもまた地域の方とふれあうことで得られる何かが、社会に出てからきっと役に立つと思っています。」

―大量のメール便を配達しにいきます

「おじいさんやおばあさんだって、彼らにしかできない仕事があります。能力が活かせるよううまく繋げられれば、自分たちも地域のことに貢献ができて、最終的には評価がもらえる。つまり商品が売れていくという一連の流れの一役を自分が担えるとなると、そこに生きがいが生まれる。その対価はお金ではなく、美味しいご飯が1食あって、みんなでお茶を飲みながら話せる“居場所“が手に入るということです。」

「結局、ここにはたくさんの資源があるんですよね。四季折々、色や香り、空気感や適度な湿度感など、毎日変わる山の景色に五感を常に刺激されること、水源地ならではの豊かな自然、課題とされる少子高齢化や空き家、耕作放棄地ですらも資源だと思っています。
ただ地元の人はそれを当たり前すぎて資源だと思わない。だからこそ、よそ者の私たちが『これ勿体無いね』『こんな事があるじゃん』と繋げることができるのだと思います。地元の人にはできない、だからと言って外の人だけでもできない、この中間(地元の人と結婚している)にいる自分だからこそ、できることがあると思っています。」

「清川村のポテンシャルは高いですよ。私にはそう見えます。こんな面白いところないよね、と思います。その1つ1つを温めて、少しずつ丁寧に進めていきたいと思っています。」

創立時に立ち返る「よってけし」1号店

―ツリーハウスを建設予定の大きな2本の木

「今回お話ししたツリーハウスや大学連携は、今までの活動が実を結んだひとつの例です。今の活動場所(第1の拠点)で事業※を組み立ててきたけれど、そうすると、みんなが過ごすサロンとして使いたい場所が仕事場になってしまったんですね。」

※2019年2月現在、NPO法人『結の樹よってけし』は地域の活性化と住民同士の交流を促すことを目的に8つの事業を行っています。(食事提供及び弁当宅配・販売事業 / 鳥獣害防止・農産物加工及び販売事業 / 住民交流促進事業 / 健康作り支援事業 / 地域安全見守り事業 / 資源有効活用事業 / 出張美容院・美容師派遣事業 / 地域就労支援事業)

「よってけし1号店をサロンとして、みんなの居場所にしたいというという気持ちは変わらないのですが、ここを立ち上げて3年ほど経って、だんだん事業を大きくすればするほど変わってしまう部分がやっぱりあって。第2の拠点がどこかに必要だとずっと思っていました。そうしたら、空き家になっている古民家の話をたまたまいただいて、2019年4月から今取り組んでいる事業の部分をそちらに移動させ、よってけし1号店は本来の目的であるサロンとして、みんながいつでも集まれる場所にもう一回リニューアルしようということになりました。」

―よってけし2号店となる予定の古民家

「もう一度よってけし1号店をサロンとして整理することによって、繋がりたい人が『よってけし』に行けば誰かとお話してお茶が飲めるねというだけでも、それをきっかけに家から出てくれます。地域のハブとなる場所があって、人と繋がることができれば、困っている時に手を差し伸べることができるコミュニティが、地域に育っていくんじゃないか。そういう場所にもう一回なりたいから、活動拠点を変えても今まで通り『よってけし』の運営はしていきたいと思っています。」

「ただ、よってけし1号店は、一旦私の中では卒業なんですよ。今までの活動をリセットして、『集まりたい』、『こんなことやりたい』って人たちに、自分たちのカラーでやってみて欲しいと言っています。
そうしないと、地域の人たちの自分ごとになっていかないんですよね。

最初は自分が立ち上げたけれど、人がいなければ作れなかったことだし、みんながいたからできたことです。『よってけし』という名前と地名度が上がってみんなが集える場所になったのは私の力じゃない。私は単純にやろうと思っただけで、あとはみんなが協力してくれたから。だから、ここは地域の人に任せて、私は次の取り組みに挑戦していきたいと考えています。」

「困ったときはお互い様」の精神で『よってけし』を立ち上げ、地域を盛り上げてきた岩澤さん。新しい活動の構想を語る岩澤さんの表情からは、思いを実現させるパワーがひしひしと感じられました。

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